美しくて残虐な復讐劇は社会に向けられている
本作はファッションデザイナーのトム・フォードが監督している。
そのためか、劇中のいたるところで彼の美意識が投影されていて非常に気持ちがいい。
主演のエイミー・アダムスは非常に美しくフィルムに映し出されているし、ジェイク・ギレンホールもセクシーだ。
本作のギミックは好きだが、小説のバイオレンスさが激しすぎて嫌悪感が半端なかった。
なぜ、危険だとわかっていて引き返すとかせず車遊びに付き合うのか、早く撃て、さもないと逃げられるぞとか、やきもきしながら見ていた笑
まあ、復讐であれば残虐な方がいいのかもしれないが、トニーの弱さがそのまま投影されているのは、今も自分は昔のままだというメッセージなのだろうか。
小説で描かれている復讐劇は、いわば一般庶民から上流階級へのリベンジである。
これはまさしくスーザンがトニーを捨てたことに対するリベンジであろう。
母親と似ることを拒んでいながら、結局母親と同じように上流階級同士で結婚するためにトニーを傷つけたのであるから。
スーザンは強くて精力的な今の夫との関係が全く上手くいっていない。
対比として、スーザンの友人はゲイの夫と上手くやっている。
この辺は、結婚相手の性質的な話でトニーの人間性は問題にならないというメッセージを暗に含んでいる気がする。
つまり、スーザンや母親はトニーの意思が弱いから結婚相手として不適当などと評価していたのであるが、本質的には彼と結婚すれば上流階級でいられないというところに問題があったということになる。
スーザンは自らの美意識により芸術展を成功させた。
しかしながら、夫はまったく興味を示さない。
ここにきてスーザンは自らの才能に気づいたのではなかろうか。
トニーと別れる頃には信じられなくなっていた自らの才能に。
トニーはスーザンの才能を信じていたのであるが‥‥‥
自分の才能を信じ続けて見事な小説を完成させたトニー。
自分の才能を信じられなくなって心が満たされなくなったスーザン。
スーザンの後悔の大きさが、トニーに与えた傷であるかのように、繰り広げられる復讐劇。
結局トニーは待ち合わせ場所に来なかった。
おそらくトニーの性格はなにも変わっていない。
精神的な弱さを持ったままのトニー。
だから、妻も娘も助けられなかったし、待ち合わせ場所にも来なかった。
それでも、スーザンは待ち合わせ場所に行ってしまった。
待ちぼうけを食らうスーザンに、強烈なメッセージだけは残る。
「俺が精神的に弱いから捨てたわけではないんだろ?」
小説の残虐さもなにもかもが社会への痛烈な批判であったのか、と気づく。
とても美しくて残虐だ。
トム・フォードがどれだけ力を入れて本作を撮ったかが伝わってくるようだ。
凄いな。シンプルにそう思う。
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